肝臓手術
図1 3Dシュミレーションソフト(SYNAPSE VINCENT/富士フィルム社)を使ってCT画像から立体構築した、肝臓内の脈管
解剖(青色が肝静脈・ピンク色が門脈)と主要(矢印)
図2 手術前にシュミレーションソフトで作成した、門脈の支配領域に基づく解剖学的切除の肝離断面形状予想図
公立昭和病院の先端医療
最新の3Dソフトを使った安心、
安全な肝臓手術
外科・消化器外科 清水 篤志 医長
肝臓の切除後は予後を改善する
肝臓がんに対する治療として、がんを含めて肝臓を部分的に切除することが、患者さんの予後を改善することが知られています。また胆のうがんや胆管がんに対する根治(治すこと)を目指した手術や、肝のう胞や肝血管腫といった良性の病気でも、肝臓を切除する手術治療が選択される場面があります
写真1 実際の肝切除時に撮影した肝離断面の写真。露出した肝静脈(青矢印)や処理したグリソン鞘(黄矢印)が確認されました
取り過ぎ・取り残しのない肝切除
「肝心要・肝腎要(かんじんかなめ)」という言葉がありますが、肝臓は生命を維持するためになくてはならない臓器です。がんを取り残すことなく切除することは大切ですが、一方であまりにも多くの容積の肝臓を切除してしまうと、残った肝臓の機能が不十分になることがあります。この状態を術後肝不全といいます。いったん肝不全になってしまうと、血漿交換などの集中的な治療を行っても回復せず救命できない場合もあり、これは最も恐ろしい合併症です。肝臓がどのくらいの切除量に耐えられるか、肝機能(予備能)を個々の患者さんごとに手術前に検査・検討したうえで、腫瘍の存在する場所や大きさに応じて過不足なく肝切除を行うことが、安全な手術には不可欠です。
そのためには手術前に肝臓をどのような形で切除するのかシュミレーションを行い、しっかりとした手術計画を立てることが大切です。
最新の3Dソフトを使った手術計画
肝臓は血液の流れが豊富な臓器です。しかし実際の肝臓は表面から中身の血管が透けて見えるわけではないので、手術中に直接肝臓に超音波を当てながら、出てきた細かな血管や胆管を糸で縛ったり、特別な器械で焼いたりしながら少しずつ肝臓を切っていきます。
従来、肝臓外科医は、手術前に撮影した肝臓の造影CT画像を見ながら経験を頼りに頭の中で解剖をイメージしていました。しかし近年、造影CTで得られた画像をコンピュータに取り込んで3D(3次元)シミュレーション画像を作成するソフトが開発されました(図1、2)。この技術は2008年に先進医療(「肝切除手術における 画像支援ナビゲーション」)として厚生労働省に認可され、2012年に保険適用になりました。
手術前にこのソフトを使うと、肝臓の中のがんと血管との立体的な位置関係を把握したり、計画している肝離断面のリアルな立体構築をしたりすることができ、手術の客観性・確実性が向上します。患者さんそれぞれのケースに応じて、肝臓の区域ごとの容積や血管単位の支配領域の肝容積を算出することができ、従来よりも綿密な治療計画も可能になります。
当院では、最新の3Dシミュレーションソフトを取り入れ、とくに肝臓がんに対する解剖学的な肝切除を中心に、術前から入念な手術計画を立て、安心かつ安全な手術を行っています。
写真2 従来の水平断造影CT画像。肝臓のS8領域に位置する直径3.5cm大の肝臓がん(矢印)
写真3 術中超音波の写真。肝内の門脈枝(矢印)に色素を注射し、染まった範囲の肝臓を解剖学的に切除しました
写真4 手術により摘出した肝臓。がん(矢印)を取り残すことなく、S8領域の肝臓ごと切除しています