脳梗塞
公立昭和病院の先端医療
脳梗塞に対する血栓を溶かす t-PA治療
脳神経外科 吉河 学史 医長
脳神経外科 堤 一生 部長(副院長)
血栓を溶かすt-PA治療
t-PA治療(血栓溶解療法)とは、脳梗塞や心筋梗塞など血栓(血液の塊)により血管が詰まったとき、その血栓を溶かして再び開通させる治療のことです。脳の動脈が詰まると、脳の神経細胞へ栄養や酸素が行き渡らなくなってどんどん傷んでいき、ついには死んでしまって(壊死)、元に戻らなくなってしまいます。そこで、脳の働きを取り戻すため、この血栓溶解療法を行うのですが、早ければ早いほど脳のダメージは少なくなる可能性があります。
脳梗塞発症から4.5時間以内にt-PA製剤の投与を!
もともと、人間の体内には、プラスミンという血栓を強力に溶かす作用のある酵素が存在しています。プラスミンは、普通はプラスミノーゲンという形で血液中に含まれており、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA:tissueplasminogenactivator)により活性化されてプラスミンへと変化します。このt-PAは血栓自体に作用して血栓を溶かすので、血栓溶解療法に適した薬剤であり、点滴で行えることができます(図1)。
日本では、2005年10月からt-PA製剤を使うことができるようになり、当初は発症から3時間以内に投与を開始しなければいけませんでしたが、海外での臨床試験の結果を受けて、2012年9月より、発症から4.5時間以内の投与開始に拡大されています(図2)。とはいえ、症状が出てからt-PAの投与までが短ければ短いほど血流が再開する可能性も高く、後遺症も軽くなります。調子がいつもと違っておかしいな、悪いなと感じたら、一刻も早く来院したほうがいいでしょう。
t-PAは“魔法の薬”ではない!
脳梗塞を発症した患者さん全てに、t-PAを投与できるわけではありませんし、また詰まった血管が必ず開通するとは限りません。投与には、いくつかの前提条件が必要となってきます。
まず、具合が悪くなった発症時刻が正確に「何時何分」と確認できなければいけません。起きてみたら具合が悪くなっていた、というように発症時刻が不明である場合は、最後に正常だった時点、つまり就寝時刻が最終確認時間となり、そこから4.5時間を超えて来院されてもt-PAは投与できません。これは、血管が詰まってから時間が経ってしまった脳組織にt-PAを投与すると逆に出血してしまう危険が高くなるからです。そのため、比較的軽症だったり、どんどん良くなっている場合には投与しないこともあります。
そのほかCTで脳梗塞がすでに出てしまっていたり、血液検査で異常項目があったり、大きな手術後間もない場合などもt-PAを投与できません。また、比較的太い血管(頸動脈など)が詰まってしまった場合は、t-PAを投与しても血栓が溶けにくいため、再開通率は低く、逆に脳出血を起こす危険があります(図3)。
最終的には、t-PAによる「リスク(危険)」と「ベネフィット(利点)」を説明して同意いただいたうえで、投与が開始されることになります。
図1 アルテプラーゼによる血栓を溶かすメカニズム(協和発酵キリンのパンフレットより)
図2 アルテプラーゼ血栓溶解療法が有効な時間帯 (協和発酵キリンのパンフレットより)
図3 症状の悪化を伴う脳出血が発現した割合(安全性) (協和発酵キリンのパンフレットより)