乳がん
写真 1 ナトレルブレスト・インプラントのテクスチャードタイプ(製品イラスト・写真:アラガン・ジャパン株式会社)
写真2 ナトレル133 ティッシュ・エキスパンダー 一体型注入口(製品写真:TE_with_needle)
公立昭和病院の先端医療
乳がん治療における乳房再建とは?
形成外科 林 雅裕 部長 乳がんで失った乳房を復元する
乳がんで失った乳房を復元する
乳房再建は形成外科の守備範囲の1つで、女性のがんの第1位である 乳がんの切除後に乳房、乳輪、乳頭をも復元する手術のことです。乳がんは女性特有な疾患のため、当院では治療に女性医師もかかわる体制を整えています。2013 年にアメリカの女優アンジェリーナ・ジョリーがある種の乳がん抑制遺伝子の変異から予防的乳腺切除、再建手術を行ったことを知る人は多いですが、年を同じくして日本でも乳房再建において 人工乳房にも 保険適用が認可されました。
さて乳房再建とはどのような手術でしょうか。まず方法としては、乳がん摘出によって失われた組織をほかの部位から移植する方法と人工物であるシリコンインプラントを埋入する方法があります(アイコン、写真1、2)。そして乳がん摘出術の際に行う1期再建、時期を置いて行う2期再建とに分類されます。なお、後述しますが、インプラントでは6か月ほどの間隔を経て2回の手術を要します。次に3つの代表的な乳房再建法について説明します。
3つの代表的な乳房再建法
①ティッシュ.エキスパンダーとシリコンインプラントによる再建術
初回手術で大胸筋という乳房下の筋肉下にティッシュエキスパンダーと呼ばれる袋を挿入します(写真2)。この袋には外から生理食塩水を入れて少しずつ膨らませます。6か月ほど後にこの袋をサイズに合わせた シリコンインプラント(写真1)と交換します(図1)。
②腹直筋皮弁
お腹の真ん中を胸から恥骨に向かって2本左右に走る筋肉が腹直筋です。筋肉はふつう栄養血管を介してその周囲の皮膚とともに血の巡りを保っています。筋肉への栄養血管を茎としてその上の皮膚を患部に移動することを筋皮弁と名付けています。腹直筋を栄養する血管はその裏面を上下に走ります。
そこで「図2、写真3」のように、お腹の皮膚を上方の腹直筋を茎として乳房部に転じる手技が腹直筋皮弁です。腹直筋は下方からも十分な栄養を受けています。そこで当科では切り離した際の下方血管の内圧を測定して必要であれば血管吻合を付加(スーパーチャージ)し、皮弁の血行を確
保しています。
③広背筋皮弁
「図3」のように栄養血管である胸背動静脈を茎として背中の皮膚を付けた広背筋を胸に移動します。
各治療法のメリットとデメリット
①~③の選択はケースにもよりますが、利点欠点を説明したうえで患者さんの希望に従います。手技が簡単なのは①です。 保険適用となったためこれからは数を増すはずです。②はお腹もすっきりしてボリュームや形態上も優れた方法ですが、腹壁瘢痕ヘルニアという合併症が起こることがあります。③は②より手術時間は短く、ヘルニアなどの合併症はありませんが背中の傷が欠点です。①は人工物であることによる被膜拘縮(異物を体内に入れたことで生じる防衛機能によってインプラント周囲が硬くなること)、感染、破損などの合併症があげられます。しかしながら学会でも現在インプラントの症例を集め管理していますので、より安全な手術へと発展してきています。
図2、写真 3 腹直筋皮弁再建術
図 3 広背筋を乳房側に回転